セルフコンディショニング
川崎ブレイブサンダース所属のアスレチックトレーナーに
テーピングとバトルウィンTMについてお聞きしました。
(取材日=2025年2月25日)

“守りの姿勢”と“攻めの姿勢”
テーピングには2つの使い方がある。
- 細江克弥
- Katsuya Hosoe
- 千葉 格
- Itaru Chiba
選手じゃなくても、勝負の世界の第一線で
――まずは経歴から教えてください。アスレティックトレーナーを目指した経緯は?
高校生まではプレーヤーでした。将来はもちろんプロになりたいと思っていたのですが、残念ながら実力不足で試合になかなか出られませんでした。ただ「勝ちたい」とは強く思っていて、トレーニングの補助でもテーピングでもなんでもやって、レギュラーメンバーを積極的にサポートしていました。悔しかったですが、そこから「スポーツでメシを食いたい」と思うようになり、スポーツを学べる大学に通ったところからこの道を本格的に意識するようになりました。
――大学でも同じような活動を?
いえ、当時の自分は生意気にも意識だけはものすごく高くて、「プロの世界で学びたい」という感覚がありました。高校を卒業してすぐ、知人を通じてプロバスケットボールチームを紹介していただき、ほとんど毎日、3カ月くらい練習見学に通ったんですよ。その結果として、アスレティックトレーナーの方にインターンとして弟子入りさせてもらうことができました。スタッフや選手の皆さんには大学卒業までの約4年間で“プロとは何か”を教えてもらって……当時お世話になった選手は現在もBリーグでヘッドコーチやアシスタントコーチとして活躍されている方が多くて、今思えば、本当にラッキーだったと思います。
――大学卒業後は?

鍼灸師の資格を取得するため、専門学校に入りました。それと同時に就職した治療院が提携していた大学のバスケ部でアスレティックトレーナーとして活動するようになりました。これもまた幸運なことに、8年間の在籍期間中にA代表を含む各年代の日本代表チームに入らせていただいたんです。そして2016年にBリーグが開幕するタイミングで川崎ブレイブサンダースに加わることになりました。
トレーナーの仕事は「ケガを起こさせないこと」
――ひとくちにアスレティックトレーナーと言っても考え方はそれぞれだと思うのですが、兒玉さんが思うアスレティックトレーナーの仕事とは?
何よりもまず、選手が最大限のパフォーマンスを発揮するためのサポートをするということです。その上で“選手のキャリアを守る”ということも視野に入れて活動したいと。だから、本質は「ケガを治すこと」ではなく「ケガを起こさせないこと」ですよね。
――わかります。“キャリアを守る”という視点もとても重要ですよね。
Bリーグは年間の試合数が多く、日程も過密です。だからこそ、ケガ人を出さないことの価値が見直され始めています。「無事これ名馬」という言葉がありますが、理想を言えば、まさにそれを目指すことがアスレティックトレーナーとしての大きな目標でもあります。もっとも、スポーツの世界においては「何をもって無事とするか」がとても重要で、その意識をチーム全体に発信し、共有することも僕たちの仕事です。
――つまり、ケガとの向き合い方が大切ということですよね?
そのとおりです。バスケットボールの場合は足首の捻挫や膝周りのケガなどが多い傾向にありますが、サッカーのように1チームあたりの選手数が多くないので、ある意味では“プレーできる程度のケガ”を抱えながらコートに立っている選手が少なくありません。ケガの種類や程度はもちろんですが、その選手のキャリアやチームの状況を考慮しつつ、「何がベストか」「何ならベターか」を見極めて判断することがとても大切だと思います。その判断において、アスレティックトレーナーが担う責任はとても大きいですよね。
――Bリーグ人気の高まりによって少年・少女の競技人口も増えていると思います。川崎ブレイブサンダースもユースチームを保有していますが、育成年代の現場から聞こえてくるケガの傾向にも変化が?
いわゆる成長痛を含めた足首や膝のケガ、突き指など、競技特性によるケガの傾向は変わらないのですが、競技人口が増えている分、発症件数も増えていると思います。バスケの場合、特にプロリーグ化以前はケガの治療や予防に関する情報発信や、何よりその注目度も限られていたので、ケガに対する理解はまだまだ発展途上にある気がします。そうした環境で育ってきた今のトッププレーヤーの中には、指や足首の変形など、正しく治療すれば改善できたケガを抱えていたり、言葉を選ばなければ“ボロボロの身体”で戦っている選手もいます。そう考えると、今の育成年代に対してのケガの治療や予防に対する発信は、バスケ人気が高まっている今だからこそしっかりやらなければならないと思いますね。
テーピングには2つの考え方がある。

――アスレティックトレーナーの本質である「ケガを起こさせないこと」については、選手が日常的に巻いているテーピングの使い方も大きく影響するのではないかと思います。
テーピングについては2つの考え方があると思っています。ひとつは、ケガの該当箇所に対して痛みが出ないようにサポート、あるいは固定してケガを予防するという使い方です。そしてもうひとつは、選手の苦手とする動作を修正することで、選手のパフォーマンスをさらに引き上げるきっかけにするための使い方です。
「予防」という観点においては、例えば、足首を捻りやすいという感覚があるなら、テーピング固定によってそれを予防することはできるし、キャリアを守るという意味でも大きな効果があると思います。ただし、本来の身体機能を制限してしまうという側面とも隣り合わせです。一方、テープの巻き方にはある程度の法則性がありますが、足の形や巻かれた時の感覚は選手によってまったく違います。つまり、その選手の感覚に合った使い方を見極めることで、使い方次第では動作を修正し、身体機能を促進させてパフォーマンスの向上にも役立ってくれると思っているんです。
サポートや固定による制限だけでなく、本来あるべき能力をより発揮できるように利用することも、広義の意味ではケガの予防を手助けしてくれると思っています。このようなテーピングを必要に応じて活用するという感覚は、どの年代においても必要だと思います。
――テーピングの使い方によって、選手のコンディションに対してそれだけ繊細なアプローチができるということですね。
間違いありません。川崎ブレイブサンダースの場合、試合と練習を併せて今日が今シーズン168回目の活動日でした。これから約30の試合が残っていることを考えると、200回以上の活動日があるわけです。つまり選手は年間200回以上もテーピングを巻くわけですから、パフォーマンスに対する影響度がかなり高いことがわかりますよね。だからこそ、治療や予防はもちろんとして、“パフォーマンスを高める”という観点はとても大事だと思います。
――“守る”だけではなく、“攻めの姿勢”でテーピングを使うと。

まさに。例えば、ケガではなく、ある筋肉の動きに不安を抱えている、あるいは高めたいと思っている選手がいたら、その筋肉をサポートするためのテーピングを提案してみる。そうやって選手とコミュニケーションを取りながら“武器”としてのテーピングを探るという感覚ですよね。それがまさに選手のキャリアを伸ばすためのアプローチであり、その感覚を持つことができれば、年間200回以上も巻くテーピングの意味がより良いものになるのではないかと。
ニチバンのテーピングテープ『バトルウィンTM』は、なくてはならない存在。
――川崎ブレイブサンダースはテーピングメーカーであるニチバン株式会社とサプライヤー契約を結んでいます。ニチバン製品について日頃感じていることはありますか?
そもそもの話として、個人的にはニチバンさんが展開されている医療系のテープがめちゃくちゃ好きなんです。例えば『カテリープラスパッド』。あの防水機能やシワにならない機能性は本当にすごくて……というアスレティックトレーナーならではのマニアックな視点でお答えすると(笑)、仕事をする上では“粘着性”と“サラサラ感”のバランスを最も気にしています。なぜなら、先ほどお話ししたとおり、選手は年間200回以上もテーピングを巻いているからです。
――なるほど。
もっとシンプルに言えば、どれだけ使っても肌が荒れないこと。テープとして必要な粘着性を維持しながら、それでも剥がすことに対するストレスがない。これは本当に大切です。巻かれる側の選手にとっても、巻く側のトレーナーにとっても。ニチバンの『バトルウィンTM』シリーズはそのバランス感覚が絶妙だと思います。チームにとって、なくてはならない存在ですね。
――そうして選手たちと密なコミュニケーションを取りながら、テーピングをはじめとする様々なアイテムを駆使してチームの力になるアスレティックトレーナーの仕事に魅力を感じる人も多いと思います。アドバイスはありますか?
この仕事を目指すかどうかにかかわらず、これから将来の進む道を決めようとする皆さんには「何ごとにもトライして!」とお伝えしたいと思います。そして、一度トライしたら自分がちゃんと納得できるところまで本気で勝負してみる。そうすることで、自分の進むべき道が開けていくんじゃないかと僕は思います。
